食本ブログ ~No food No Life, No Book No Life~

「美味しい」本を捜す旅。「食「読みように食べ、食べるように読む]

食べ物は時として、残酷な程真実を語る〜食べるたびに、哀しくって…

食べ物はキケンだ。それは時として食べる人の育ちや本性を容赦なく暴いてしまう。ふとした箸の所作や、食べ方で百年の恋が冷めることもあれば一緒に分け合って食べた料理が数年後に再び心を温めてくれる事もある。食べ物に関する思い出は、食欲と結びつくせいかなかなか忘れられない。その食べ物を見る度に思い出すことになってしまう。なかなか厄介だ。
『食べるたびに、哀しくって』はそういう意味でこれ程危険な読み物はない。

初めて読んだのは10年以上前だが、未だにこのエッセイに出てくる「炊きたての飯釜で暖め直した売れ残りのパン」や「釣船の上で食べた朝食」は私の記憶の味覚にしっかり貼り付いて、最早私の実体験と区別がつかないほどだ。

自分よりも美しい女の子、裕福な人々、そういったものへの妬みや卑屈な感情を描かせたら林さんの文章はダントツだ。
単に楽しかったとか、悲しい思い出とかそういうシンプルな感情ではない。過剰な自意識、自尊心と裏返しの劣等感…そういった想いが食べ物の記憶と並走して、一生心にしがみつく。
林さんの人間観察力や、描写力に強い妄執のようなものが感じられるのは頭だけではなく、自分の暗い感情すらも咀嚼し、呑み込んで消化するという生々しさがあるからだ。食べ物と記憶をリンクする「食欲記憶法」をマスターしたい人は必読だろう。